世界との出会い79(蔡英文)

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⚫︎『蔡英文自伝』(白水社 2017年)を読んで。

⚫︎国を思うということにも、過去指向的な気持ちと未来指向的な気持ちがあるように思われる。過去から引き継がれた伝統や達成されたものを重んじ、そこへ回帰しようとする運動と現在の状況を見極めて、それに将来適応していこうとする運動である。とある国の学校法人の理事長などが見せる態度が前者の典型であろう。この自伝の著書は、私には、後者の典型のように思われる。なぜなら、後者は、公正・公共性を実現するためにバランス感覚を強調し、相対立する政治的・経済的課題を解決しようと奮闘しているからである。そして、相対立するもののバランス無くして、建設的・生産的未来はないからである。

⚫︎蔡英文は、自らの内面的多様性を自覚しながら、学者、官僚、政治家という経歴を生きてきた人物である。彼女の職業的人生の変遷は、理性と忍耐によって勝ち取られたもののように見える。彼女の人生の記録を読むと、私たちの国ではとっくに消滅してしまった「大きな物語」がまだ生きているように思われる。彼女の経歴が鍛えと成長によってもたらされたものであることがよくわかるのである。

⚫︎自己をモニターすることによって、評価と反省を公正に行う。これは、大変難しいことだが、政治的リーダーには、不可欠の要件である。蔡英文は、このような資質を持ち合わせた稀有な政治家のように見える。私たちの国にこのような政治家は、大変少なくなったのではないだろうか。蔡英文の、修行者のような、生き方は、我々の国のもう絶滅してしまった「武士(もののふ)」という種族を思い出させる。