世界との出会い87(文化の力)

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⚫︎岩波書店の雑誌『世界』9月号の寺島実郎「脳力のレッスン」を読む。この論考の冒頭で、寺島は、物理学者アインシュタイン精神科医フロイトの往復書簡を取り上げている。その中で、アインシュタインは、「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか」というテーマを選び、フロイトに問いを投げかけたと言う。その問いに対し、フロイトは、「愛」(エロス)と「攻撃本能」という彼の欲望についての考えを語り、「人間から攻撃的な性質を取り除くなど、できそうもない」と述べているようである。しかし一方で、文化の大切さに言及し、フロイトは「文化の発展を促せば、戦争の終焉に向けて歩み出すことができる」とも述べていると、寺島は記している。

⚫︎文化という言葉が指す意味も多様だが、学問や芸術やそれぞれの地域に暮らす人々の生活様式など、それに触れることによって、人々を驚かせたり、感動させたりする営みだとしておこう。例えば、音楽なら、世界中の諸言語を越えて何かを伝えることができるのを、多くの人が実感を通して知っている。

そこで伝わるのは、何か人間にとって普遍的なものではないのだろうか。

⚫︎フロイトは、人間には強い二つの衝動があることを知っていた。だからこそ、それを飼いならしコントロールする知性の統御の必要性を強く感じたのではないか。そして、それを鍛え陶冶する力を文化の中に見たのではないだろうか。それはまた、寺島実郎が指向するものでもあるはずだ。




世界との出会い86(高度飛翔体)

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⚫︎以前「高速飛翔体」としての燕の素晴らしさについて書いたが、鳶などは、今度は、「高度飛翔体」と言っていいのではないか、と思う。朝、山を臨んだ停留所で、バスをまちながら、空を見上げると、かなりの上空に、鳶がゆっくりと輪を画きながら飛んでいる。三回、四回と、悠々と回っている。おそらく、獲物を探しているのであろう。そうであれば、その視力にも驚くのだが、何よりも、上空100m〜150m(あるいはそれ以上)の位置で、目立った羽ばたきもせず、浮かんでいられる身体を獲得したこと事態が、奇跡としか思えない。

⚫︎雑誌『日経サイエンス』の2017年6月号に、恐竜が鳥へと進化した時の羽毛の発達についての記事が載っている。羽毛の発達の端緒は、飛ぶという機能のためよりも、異性へのアピールではないか、という論点も、面白いが、羽毛という、素材の精緻な構造と徹底的に軽量化を図った身体についての指摘も興味深い。圧倒的に軽い身体と空気という流体に最も適応した羽毛という素材無しには、「高度飛翔体」はありえないのである。

世界との出会い85(鏡の表面を歩く蟻)

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⚫︎蟻が、硝子の垂直面を自在に歩き回るのは、驚異的なことではないか。鏡の表面は、半端無く滑らか、ツルツルである。目にした蟻は、可なり小さな種類だった。彼等のスケールからすれば、鏡の表面も凸凹しているのかもしれない。脚にも、ものの表面にしっかり張り付く仕組みが装備されているのであろう。動き回る、一匹の蟻の全体像が、鏡に映って、本体と共に移動するのを見るのも、大変面白い。これだけで一種の動画のアートである。

世界との出会い84(メンタライジング)

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⚫︎他者とコミュニケイトする時に、心掛けるべきことは、次のこと。
⚫︎相手も自分とよく似た心をもっているということ、そして、同時に、相手は自分と全く違う心をもっているということを想定しなければならない。
⚫︎更に、相手は自分と全く違う心をもっているということ、そして、同時に、相手も自分とよく似た心をもっているということを想定しなければならない。
⚫︎簡単に言うと、これが「メンタライジング」であり、「心の理論」を学ぶことではないか。もっと簡単に言えば、「お互い様」という発想を持つことだ。

世界との出会い83(サイトカイン)

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⚫︎生体にとって、生き抜くことは最優先事項。だから、そのシステムの中には、生き抜くための、死なないためのあらゆる、手立て、工夫、戦略が、組み込まれている。
⚫︎たとえば、免疫系の中で機能するサイトカインという物質の働きの複雑さといったら、それはもう驚嘆に値するものだ。複雑過ぎて素人には全く分からないという印象さえ持つ。しかしらこれは、外界からの生体への多様な攻撃に対する策として、その生体が発達させたものだろう。恐らく、その複雑さ故に、外敵だけではなく、自らをも傷付けてしまうこともあるようだが。
⚫︎また、皮膚という外界と直接接している身体部分の精緻なシステムにも、驚くばかりである。この薄い層の中にどれほど複雑な機能が組み込まれているか。「お肌」を丁寧にケアすべきなのは、女性だけではない。

世界との出会い82(谷川俊太郎)

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⚫︎やはり、これらの詩は、素晴らしい。

⚫︎「黄金の魚」 


谷川俊太郎 

おおきなさかなはおおきなくちで
ちゅうくらいのさかなをたべ
ちゅうくらいのさかなは
ちいさなさかなをたべ
ちいさなさかなは
もっとちいさな
さかなをたべ
いのちはいのちをいけにえとして
ひかりかがやく
しあわせはふしあわせをやしないとして
はなひらく
どんなよろこびのふかいうみにも
ひとつぶのなみだが
とけていないということはない

 

⚫︎生きる 
谷川 俊太郎 
生きているということ
今生きているということ
それはのどがかわくということ
木もれ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみをすること
あなたと手をつなぐこと

生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
かくされた悪を注意深くこばむこと

生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ

生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまぶらんこがゆれているということ
いまいまが過ぎていくこと

生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ
 


世界との出会い81(国会議員)

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⚫︎とある国の最高学府を卒業し、その国の友好国のトップレベルの大学に留学した後、自国の立法府の議員になった女性が、自らの政策秘書に、罵詈雑言を浴びせているスキャンダルが、取り沙汰されている。人間だから、怒りを剥き出しにして、相手に言葉をぶつけることもあるだろう。その点は、全く理解できない訳ではない。

⚫︎一番気になるのは、彼女が、専門的な学習なり、研究なりの過程で何を学んで来たのかということだ。彼女の学びには、実質というものがあったのだろうか。例えば、民主主義というのは、先ずは、冷静な言語の行使によって、困難な問題を解決していこうとするシステムだということや相手の行為に対する説明を求め、それによってその行為の是非を判断することなどを、きちんと理解していたのだろうか。彼女が求めていたのは、学歴のブランド性だけだったのではないか。詰り、「私は優秀なのよ」というラベル、形式だけが欲しかったのではないか。

⚫︎もし、市民・国民がこの議員のところに、何かの陳情に来た時に、彼女は怒鳴りつけたのだろうか。言葉を使って、つまり、議論や討議を通して、問題解決を図ろうとするのが、政治のプロであろう。そう言う意味で、この議員は資質を欠いていると言わざるを得ない。彼女の優秀さとは一体何なのだろう。???