世界との出会い87(文化の力)

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⚫︎岩波書店の雑誌『世界』9月号の寺島実郎「脳力のレッスン」を読む。この論考の冒頭で、寺島は、物理学者アインシュタイン精神科医フロイトの往復書簡を取り上げている。その中で、アインシュタインは、「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか」というテーマを選び、フロイトに問いを投げかけたと言う。その問いに対し、フロイトは、「愛」(エロス)と「攻撃本能」という彼の欲望についての考えを語り、「人間から攻撃的な性質を取り除くなど、できそうもない」と述べているようである。しかし一方で、文化の大切さに言及し、フロイトは「文化の発展を促せば、戦争の終焉に向けて歩み出すことができる」とも述べていると、寺島は記している。

⚫︎文化という言葉が指す意味も多様だが、学問や芸術やそれぞれの地域に暮らす人々の生活様式など、それに触れることによって、人々を驚かせたり、感動させたりする営みだとしておこう。例えば、音楽なら、世界中の諸言語を越えて何かを伝えることができるのを、多くの人が実感を通して知っている。

そこで伝わるのは、何か人間にとって普遍的なものではないのだろうか。

⚫︎フロイトは、人間には強い二つの衝動があることを知っていた。だからこそ、それを飼いならしコントロールする知性の統御の必要性を強く感じたのではないか。そして、それを鍛え陶冶する力を文化の中に見たのではないだろうか。それはまた、寺島実郎が指向するものでもあるはずだ。